カンボジアといえば、世界遺産に登録されているアンコール遺跡群が有名ですが、実はそれだけではありません。
今回ご紹介させていただくのが、カンボジアの心臓部に位置するアンコールトム。壮大な歴史を刻む遺跡群の中核を成す場所です。
12世紀後半「ジャヤヴァルマン7世」によって設立されたこの大都市は、9000平方メートルに及ぶ広大な敷地内に、先代の王たちによって建立された多くの記念碑的建造物があります。
アンコールトムの中心には、ジャヤヴァルマンの国家寺院である「バイヨン」が鎮座し、その周囲には北に位置する勝利広場を中心に、他の主要な遺跡が集まっています。
アンコール遺跡群は、9世紀から15世紀にかけて栄えたクメール王朝の都市や寺院の遺跡群で、約400平方キロメートルにわたって広がっています。
その中には、アンコールワットのほかにも、アンコールトム、バイヨン、タ・プローム、プリア・カンなど、様々な建築様式や芸術性を持つ遺跡があります。
これらの遺跡は、クメール王朝の歴史や文化、宗教、政治、社会などを反映しており、見る者に圧倒的な感動と驚きを与えます。
1. アンコールトム
1-1. 基本情報
- 場所 : アンコールワットの北
- 建造年 : 12世紀末から13世紀初め
- 建造した人 : ジャヤヴァルマン7世
- 建造物のタイプ : ピラミッド型
アンコールトムは、12世紀末から13世紀初めにかけて、クメール王朝の第35代の王である「ジャヤヴァルマン7世」によって建設されました。またアンコールトムとは、クメール語で「大きな都市」という意味です。
約9000平方メートルの面積を持ち、周囲には高さ8メートル、幅4メートルの城壁と、幅100メートルの堀がめぐらされています。
城壁には、南北東西にそれぞれ、計5つの門(東は2つ)があり、各門には、巨大な顔を持つ四面の塔がそびえています。
アンコール・トムの門やバイヨン寺院に見られる顔は、クメール王朝の国王ジャヤヴァルマン7世自身を象徴しているとされています。
また、これらの顔は観音菩薩の大尊顔を模しており、静かに目を閉じ微笑みを浮かべるその表情は「クメールの微笑み」と称されています。
門の上には、ナーガ(蛇)の姿をしたバラモン(神官)の像があり、それぞれの門には、ナーガの尾を引っ張る神々と悪魔の像が並んでいます。
これらは、インド神話における乳海攪拌(にゅうかいかくはん)という物語を表しており、神々と悪魔がナーガをロープにして、乳海をかき混ぜて不死の霊薬を得ようとしたという伝説です。
1-2. 歴史的背景
アンコールトムは、クメール王朝の第35代王ジャヤヴァルマン7世によって建設された都市で、彼は1177年のチャム族の侵攻による王朝の崩壊後、王国を再興し、その領土をラオスやタイにまで拡大しました。
仏教徒であった彼は、自らを慈悲の化身、ロクシャナと同一視し、アンコールトムを含む多くの仏教寺院や宮殿を建設し、これらはクメール王朝の政治的、宗教的、文化的な中心地として繁栄しました。
しかし、彼の死後、王朝は衰退し、15世紀にはアユタヤ王朝によって滅ぼされ、アンコールトムはジャングルに埋もれた忘れられた都となりました。
19世紀にフランスの探検家によって再発見された後、20世紀には国際的な努力により修復が進められ、現在ではカンボジアの重要な遺産として保護されています。
1-3. アクセス方法
アンコールトムへのアクセスはシェムリアップ市内からトゥクトゥクやタクシーで約20分で、アンコールワットの前を通り過ぎて南大門へと向かいます。
自転車やバイクでのアクセスも可能で、アンコールワットから約5kmの距離にありますが、南大門から先は一方通行となっているため注意が必要です。
また、バスやツアーを利用する場合は、ルートや時間を事前に確認することをお勧めします。
↓は南大門の様子です。
クリックまたはタップで遺跡内に入れます。
1-4. 営業時間とチケット料金
営業時間は7:30から17:30までで、アンコールワットやスラ・スラン遺跡は5:00から17:30、プノンバケンやプレループは5:00から19:00まで開いています。
入場にはアンコールワットや他の遺跡と共通のアンコールパスが必要で、1日券、3日券、7日券の3種類があります。11歳以下の子供は無料ですが、パスポートの提示が求められます。
チケットの種類 | 価格 (US$) | 価格 (JPY) | 有効期間 |
---|---|---|---|
1日パス | $37 | 5,550円 | 1日 |
3日パス | $62 | 9,300円 | 発行日から10日間有効 |
7日パス | $72 | 10,800円 | 発行日から1ヶ月間有効 |
1-5. チケット販売所の場所
チケット販売所はシェムリアップ市内から北東へ約4-5kmの場所にあり、Street 60とApsara Roadの交差点の角に位置しています。
支払いは現金(ドル・ユーロ等)やクレジットカード(Visa、Mastercard、JCB、ダイナース等)で行えますが、チケットオフィス以外で購入した場合は無効となるため注意が必要です。
インターネットでの事前購入も可能ですが、顔写真の登録が必要です。
営業時間は5:00から17:30までで、翌日分の入場券の購入は17:00から可能です。
↑のストリートビューが販売所となります。
2. バイヨン
2-1. 基本情報
- 場所 : アンコールトムの中心
- 建造 : 12世紀末
- 建造した人 : ジャヤヴァルマン7世
- 建造物のタイプ : ピラミッド型
バイヨンは、カンボジアのアンコール遺跡の中心にある寺院跡で、ヒンドゥー教と仏教の融合が見られることで知られています。
四面に人面像が彫られた塔が特徴的で、クメール語で「美しい塔」を意味します。
この寺院は、12世紀末ごろにアンコール王朝の中興の祖と言われるジャヤヴァルマン7世によって建立されました。
彼はチャンパ(ベトナム)との戦争に勝利した記念として、大都城アンコール・トムの中心にバイヨンを造営し、万神殿としての役割を果たしていたと考えられています。
バイヨンの最大の見どころは、塔の四面に彫られた人面像です。
これらの像は観世音菩薩像を模しているというのが一般的な説ですが、ジャヤヴァルマン7世を神格化したものであるとする説や、ヒンドゥー教の神々を表しているという説もあります。
いずれにせよ、これらの像はクメールの微笑みと呼ばれ、優しく穏やかな表情が印象的です。
また、バイヨンは三層に分かれたピラミッド型の構造をしており、高さは約43メートルとされています。
第一層には東西南北に門があり、回廊には乳海攪拌などのレリーフが残っています。
第二層と第三層にはそれぞれ16の塔があり、どの塔にも四面像が彫られて、第三層の中央にはかつてシヴァリンガが置かれていたとされる場所があります。しかし、現在は上座部仏教の像が置かれています。
2-2. 歴史的背景
バイヨンは、12世紀末ごろにアンコール王朝の中興の祖と言われるジャヤヴァルマン7世によって建立されました。
ジャヤヴァルマン7世は、チャンパ王国との戦争で荒廃したアンコールを復興するために、仏法で国を統治する転輪聖王となることを志していました。
彼は、アンコール・トムを新たに首都として築き、その中心にバイヨンを建てました。
当初は大乗仏教の寺院であったが、後にアンコール王朝にヒンドゥー教が流入すると、寺院全体がヒンドゥー化しました。
これは、建造物部分に仏像を取り除こうとした形跡があることや、ヒンドゥーの神像があることなどからも推測できます。
バイヨンを特徴付けているのは、中央祠堂をはじめ、塔の4面に彫られている人面像です。
人面像は観世音菩薩像を模しているというのが一般的な説ですが、ジャヤヴァルマン7世を神格化したものとする説や、ヒンドゥー教の神々を表しているという説もあり、この像はクメールの微笑みと呼ばれています。
バイヨンの建立は、ジャヤヴァルマン7世の信仰心と慈善心の表れとも言えます。
彼はアンコール・トム周辺に数多くの施療所や休息所を設け、国民の生活向上に努めました。
また、バイヨンの壁面には、チャンパとの戦闘や市場の様子など、当時の社会の様子がリアルに描かれています。
これらのレリーフは、カンボジアの歴史や文化を知る貴重な資料となっています。
2-3. アクセス方法
バイヨンはアンコールトムの中心部に位置し、シェムリアップから車で約20分ほどかかります。
車やトゥクトゥクをチャーターして、アンコールトムとアンコールワット、タプロームをセットにし1日で回るのが定番コースです。
また、自転車をレンタルすると、ひとつひとつの寺院をゆっくりと見学することも可能です。
↓は西側入口の様子です。
クリックまたはタップでバイヨン内を探索できます。
↓は東入口の様子です。
クリックまたはタップでバイヨン内を探索できます。
2-4. 営業時間とチケット料金
バイヨンのチケットはアンコールワットと同じアンコールパスで入場できます。
アンコール遺跡群を訪れるには、アンコールパスが必要で、このパスはアンコールワット、バイヨンを含むアンコール遺跡群のすべての主要な遺跡への入場を許可します。
3. タ・プローム
3-1. 基本情報
- 場所 : アンコールトムの少し東側
- 建造 : 12世紀後半
- 建造した人 : ジャヤヴァルマン7世
- 建造物の特徴 : 大木の根に覆われている
基本情報 タ・プロームは、カンボジアにあるアンコール遺跡群のひとつです。
アンコール・トムの東側に位置する寺院の遺跡で、東西約1,000m、南北約700mという広大なラテライトの壁に囲まれています。
タ・プロームとは「梵天の古老」という意味で、ジャヤヴァルマン7世が母を弔うために建てたものとされています。
この遺跡の最大の特徴は、巨大なスポアン(榕樹)の根が遺跡に絡みついている光景で、自然と歴史が融合した神秘的な雰囲気を醸し出しています。
3-2. 歴史的背景
タ・プロームは、12世紀後半にクメール王朝の最盛期の王とされるジャヤヴァルマン7世によって建立されました。
この王は仏教徒であり、アンコール・トムやバイヨンなどの仏教寺院を多く建設しました。
タ・プロームは、王の母の菩提を弔うために建てられた仏教僧院で、その主神はプラジュニャーパーラミターと呼ばれる仏教の女神でした。
この寺院は「ラージャヴィハーラ」と呼ばれ、王の僧院として重要な役割を果たしました。
碑文によると、建立当時には5,000人以上の僧侶と615人の踊り子が住んでおり、260の神々が祀られていました。
また、国内102ヶ所の施療院への必需品の集配所としても機能していました。
しかし、タ・プロームは後に、ヒンドゥー教寺院に改造されたと考えられています。
そのため、仏教色の強い彫刻の多くが削り取られている形跡があります。
クメール帝国が崩壊した後、タ・プロームはジャングルに覆われて放置されていましたが、19世紀にフランスの探検家アンリ・ムーオによって発見されました。
その後、修復作業が行われましたが、自然の力をそのまま表現するために、樹木の除去や本格的な積み直しなどは行われませんでした。
その結果、巨大なスポアンの根が遺跡に絡みついたままの姿が残されました。
3-3. アクセス方法
タ・プロームへのアクセス方法は、シェムリアップの中心部から車やトゥクトゥクで約25分〜30分の距離にあります。
また、アンコール遺跡群の中でも人気の高いスポットなので、ツアーが組まれている時間帯は混雑することがあります。
そのため個人旅行の際は、お昼の時間をずらして訪れるなど、観光客が少ない時間帯を狙って行くと、より神秘的な時間を楽しむことができます。
↓はタ・プローム西側入口の様子です
クリックまたはタップでタ・プローム内に入れます。
3-4. 営業時間とチケット料金
バイヨンのチケットはアンコールワットと同じアンコールパスで入場できます。
アンコール遺跡群を訪れるには、アンコールパスが必要で、このパスはアンコールワット、バイヨンを含むアンコール遺跡群のすべての主要な遺跡への入場を許可します。
4. プリア・カン
4-1. 基本情報
- 場所 : アンコールトムの少し北
- 建造 : 12世紀末
- 建造した人 : ジャヤヴァルマン7世
- 建造物のタイプ : 平地型
プリア・カンは、カンボジアにあるアンコール遺跡のひとつです。仏教とヒンドゥー教の習合寺院で、敷地は東西800m、南北700mという広い寺院です。
アンコールトムから北東の方向に1.5kmほどのところに位置しています。プリア・カンという名前は「聖なる剣」を意味しており、王がチャンパ軍との戦いに勝利したことを記念して、王の父の菩提寺として建てられました。
ギリシャ神殿風の二階建ての石造建築と、巨大なガルーダ像が見どころになっています。
4-2. 歴史的背景
プリア・カンは、12世紀末にクメール王朝のジャヤヴァルマン7世が建立した寺院です。
彼は1177年、チャンパ軍によって占領されたアンコールを解放するために戦い、1181年にアンコールの奪還に成功しました。
1190年にチャンパ軍が再侵攻を試みた際も、ジャヤヴァルマン7世は勝利を収め、チャンパ軍を降伏させることができました。
この勝利を記念して、彼は父ダーラニンドラヴァルマン2世への感謝と敬意を込め、プリア・カンを建設しました。
この寺院は、ジャヤヴァルマン7世が建てた仏教寺院の中で最初のものであり、彼の一時的な宮殿としても使用されていたようです。
記録によれば、プリア・カンの建設には10万人もの人々が従事しており、寺院と住居が一体となった大規模な施設であったことが伺えます。
寺院内には武具館もあり、そこから黄金の聖剣が発見されたことから、「聖なる剣」という名を持つようになりました。
この剣は王権の象徴であり、再び戦争の火を振るうことのないよう、平和への願いが込められていたと言われています。
またプリア・カンは、仏教とヒンドゥー教の習合寺院であり、ヴィシュヌ神、シヴァ神、ブラフマー神のリンガや、ガルーダやナーガなど、ヒンドゥー教の神々の像や浮き彫りが数多く見られます。
しかし、ジャヤヴァルマン8世の治世時に、仏教とヒンドゥー教の間で宗教戦争が勃発し、多くの仏像や仏陀のレリーフが破壊されてしまいました。
4-3. アクセス方法
プリア・カンは、アンコール遺跡の大回りコースに含まれる遺跡のひとつで、他の遺跡と合わせて訪れるのがオススメです。
コースの見どころの一つとして、プリア・カンの近くにある「ニャック・ポアン」や「タ・ソム」「東メボン」を巡るルートがおすすめです。
また、プリア・カンは、東西に入口があって、東から入って西に出る、またはその逆から出ることもできます。
↓はプリヤ・カーン東側入口の様子です。
クリックまたはタップで遺跡内を探索できます。
4-4. 営業時間とチケット料金
バイヨンのチケットはアンコールワットと同じアンコールパスで入場できます。
アンコール遺跡群を訪れるには、アンコールパスが必要で、このパスはアンコールワット、バイヨンを含むアンコール遺跡群のすべての主要な遺跡への入場を許可します。
5. バプーオン
5-1. 基本情報
- 場所 : バイヨンの北西
- 建造 : 11世紀中頃
- 建造した人 : ウダヤーディティヤヴァルマン2世
- 建造物のタイプ : ピラミッド型
バプーオンはカンボジアのアンコール遺跡に位置する寺院で、アンコール・トム内のバイヨンの北西にあります。
11世紀中頃に創建されたこのヒンドゥー教寺院は、シヴァ神に捧げられており、ピラミッド型の構造を持つ3層から成り立っています。
バプーオン様式の原型とされるこの寺院は、「隠し子」という名前の由来となった、カンボジアとシャムの争いに関する伝説があります。
15世紀には仏教寺院へと改修され、巨大な寝釈迦像が造られました。しかし、地盤の弱さから多くの部分が崩壊していましたが、2011年に修復が完了しました。
5-2. 歴史的背景
バプーオンはウダヤーディティヤヴァルマン2世によって建立され、彼の治世下でシャムとの戦争に勝利し、アンコール王朝の版図を拡大しました。
彼は、シヴァ神を中心とした物語の浮き彫りや、葉状紋様の深い装飾を施した寺院を建てました。
寺院の最大の特徴は、内側の塔門に向かって約200m続く「空中参道」で、これは地上と天界を結ぶ役割を果たしていました。
13世紀にカンボジアを訪れた周達観による記述には、バプーオンの塔はバイヨンの塔よりも高かったとあります。
しかし、建築上の問題や自然災害により、多くの部分が崩壊しました。
15世紀にはアンコール王朝が衰退し、仏教が広まり、バプーオンも仏教寺院に改修されました。
20世紀には寺院の大部分が崩壊しており、1920年代の修復の取り組みはその後問題を示しました。
1960年に始まった修復作業は、クメール・ルージュの勢力拡大により1972年に中断され、石材の位置についての記録は失われました。
1994年に再開された修復作業は2011年に完了し、カンボジアの国王ノロドム・シハモニとフランスの首相フランソワ・フィヨンが公開式典で復元された寺院を見学しました。
5-3. アクセス方法
バプーオンは、バイヨン寺院の北側に位置しています。
シェムリアップの中心部からバプーオン遺跡までは、車またはトゥクトゥクで約20〜25分の距離にあります。
バプーオンの主な見どころは、長さ200mに及ぶ石橋である「空中参道」で、かつて地上と天界を結ぶ役割を果たしていたと言われています。
↓はバプーオン空中参道の様子です。
クリックまたはタップで空中参道を歩いてみる。
5-4. 営業時間とチケット料金
バイヨンのチケットはアンコールワットと同じアンコールパスで入場できます。
アンコール遺跡群を訪れるには、アンコールパスが必要で、このパスはアンコールワット、バイヨンを含むアンコール遺跡群のすべての主要な遺跡への入場を許可します。